2011年08月20日
【インタビュー】〔「匿名でいい仕事」が基本〕山下達郎さん
新人バンドなどがよく説得される言葉が「今だけ、ちょっと妥協しろよ」「売れたら好きなことができるから」。でもそれはうそです。自分の信じることを貫いてブレークスルーしなかったら、そこから先も絶対にやりたいことはできない。やりたくないことをやらされて売れたって意味がない。そういった音楽的信念、矜持(きょうじ)を保つ強さがないとプロミュージシャンは長くやっていけないのです。
自分の表現手段である音楽活動以外は、あれもやらない、これもやらないと、やらない尽くしのネガティブプロモーションが、結果的に僕には一番合っていたのだと思います。テレビCMに出演して「RIDE ON TIME」が大ヒットしてブレークした時、少し顔を覚えられただけで、新幹線の駅売店の売り子さんが、「ああ、あなた、昨日テレビ出てた、出てた」と、こっちがどこの誰だろうと関係なく、ただの有名人として扱う(笑)。僕はそういうのが苦手だったので、以後は大きなメディア露出をなるべく避けて今に至っています。
夫婦でCMに出ないかと誘われたことがあります。2日間の拘束で相当なギャラでした。でもそんなことをしたら、自分の曲が書けなくなります。曲を書くのは大げさに言えば命を削る作業なので、できなくて苦しんでる時に頭に浮かぶでしょう、またCMに出ようかなって(笑)。曲を書く以外に生きる道はないところに、いつも自身を追い込んでいなければと思うのです。
冒頭の「今だけ、ちょっと妥協しろよ」「売れたら好きなことができるから」の話は、達郎さんの体験談と教訓に違いない。
私は、「RIDE ON TIME」か「FOR YOU」かのいずれかがヒットした時に、達郎さんが何かのインタビューで以下の旨仰っていたのを覚えている。
今回「RIDE ON TIME」(or「FOR YOU」)が売れてわかったことがある。
それは、ミュージシャンは売れないとダメだ、ということだ。
売れないと、制作側が要求する音楽を、制作者が要求する周期で創らなければいけない。
これでは、自分がやりたくない音楽をやらざるを得ない。
自分がやりたくない音楽をやっているミュージシャンは、ミュージシャンではない。
「売れることは、プロのミュージシャンとして居続けるプロセスであって、ゴールではない。
ゴールは、終生、プロのミュージシャンとして居続けること、すなわち、自分が本当にやりたい音楽だけをやり続けることだ」。
今回のインタビューとは異なり「売れること」が全面に出ているが、達郎さんが仰っていること(仰りたいこと)は、この意味において等しい。
「自分が本当にやりたい音楽を、一切妥協せず、命を削ってやり続ける。
それに悪影響すること、悪影響しかねないことは、今がどれだけ助かろうが、今後どれだけ助かろうが、断固放棄する。
そして、売れ続ける。
これができるミュージシャンこそ、プロのミュージシャンである」。
これがプロのミュージシャン、いや、自他共に認める「音楽職人」の達郎さんの哲学なのだろう。
達郎さんの高潔かつ真実の哲学には、脱帽以外無い。
★2011年8月9日朝日求人ウェブ/仕事力「山下達郎が語る仕事-2」(↓)より
http://www.asakyu.com/column/?id=1031