【観戦記】「第69期名人戦七番勝負〔第6局の9▲羽生善治名人△森内俊之九段〕好手▲6八銀打」椎名龍一さん【観戦記】「第69期名人戦七番勝負〔第6局の10〕」椎名龍一さん

2011年07月05日

【ブログ】「突き抜けないブログ/定跡を創った棋士」羽生善治さん

(【勝又清和六段】)
「あなたの将棋にはいつも新しい手が出てきますね。家で研究しているんですか?」

(【山崎隆之七段】)
「いえ逆に不勉強だからです。相手の研究にはまらないように手を変えているわけで。たいていその場の思いつきです。」

なぜ、羽生善治さんは強いのか。
将棋は、使用する道具が限定的で、相手の情報、手の内も相互に知り得る「完全ゲーム」だ。
ゆえに、本質的な正解は、「高確率で他の棋士が指さない有効手が指せるから」であるはずだ。

「他の棋士が指さない有効手」は二種類あるはずだ。
一つは、「候補手として思考はするものの、有効手になると確信でき得る以降の手順が見出せず、除外する手」。
もう一つは、「そもそも候補手として思考だにしない(≒候補手から直感的、無意識的に除外する)手」だ。
山崎隆之七段のインタビューコメントから直感したのだが、羽生さんは、後者を意識的に、積極的に志向(嗜好)なさっているのではないか。

もちろん、その正否は羽生さんにしかわからない。
しかし、羽生さんが後者を志向するのは合理的だ。
なぜなら、羽生さんは、研究に割けるリソースが他の棋士よりも圧倒的に少なく、「研究比べ」では他の棋士に基本勝てないからだ。
羽生さんが多用なさる比喩の一つに「情報高速道路(ハイウェイ)理論」がありそこでは「研究(済)手」は「(既に情報共有され、思考無しにすっ飛ばして行ける)高速道路」であり、「非研究手」は「(高速道路を降りた後の人がまだ通っていない)獣道」だ。
羽生さんが「高速道路」から積極的に降りる、即ち、「獣道」で局地戦を志向するのは、理に適っている。

では、なぜ、他の棋士は、羽生さんの如く、「他の棋士がそもそも候補手として思考だにしない有効手」を志向しない、志向できないのか。
「研究比べ」ではほぼ間違いなく羽生さんに勝てるがゆえに、あとは本事項さえ実践できれば、本来「鬼に金棒」であるはずだ。

「研究を積めば積むほど、非研究手を思考(着想)できなくなり、また、もし思考できたとしても、実戦で指せなくなる」といった「研究のジレンマ」は、一つの理由だろう。
「実績や加齢を重ねれば重ねるほど、『獣道』に降りる勇気や気概が奪われる」といった「経験値のジレンマ」も、一つの理由だろう。

しかし、二番目の理由は、少なくとも一番にはなり得ない。
なぜなら、羽生さんは、一番の実績者だからだ。

誤りを怖れず断言すれば、一番の理由は、「眼前の一局への勝利意欲を募らせれば募らすほど、『獣道』を回避したくなる」といった「勝利意欲のジレンマ」だ。
では、だとしたらなぜ、羽生さんは、この「勝利意欲のジレンマ」に陥らない、または、もし陥ってもさほど深く陥らずに済むのか。

羽生さんは、そもそも、「勝負の本質は人と違うことをやること」と心底心得ておられるのではないか。
その上で、眼前の一局に勝利することよりも、将棋そのものをより究めること、自分が更に強くなることを、自分が将棋を指す一番の理由、自分が生きる一番の理由にし続けられる何かをお持ちなのではないか。
だから、実戦において、「これで負けても本望!」の覚悟で、「獣道」を積極的に志向できる、結果、高確率で他の棋士が指さない有効手が指せる、のではないか。

アントニオ猪木さんが多用なさる言葉の一つに、以下の一休宗純(一休禅師)のそれがある。
私は、羽生さんがこの言葉の実直かつ稀有な実践者、体現者に思えてならない。

危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし
踏み出せば、その一足が道となり
その一足が道となる
迷わず行けよ、行けばわかるさ


★2011年7月2日付「突き抜けないブログ/定跡を創った棋士」(↓)より
http://d.hatena.ne.jp/katsumata321/20110702#1309617434

※読者の通りがかりさんから誤りを指摘頂き、2012年4月18日修正加筆。
https://twitter.com/kimiohori/status/192737773617295362



kimio_memo at 07:09│Comments(2)TrackBack(0) web 

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この記事へのコメント

1. Posted by 通りすがり   2012年04月18日 15:47
記事をよく読みましょう
勝又六段に対して受け答えをしているのは山崎隆之七段です
2. Posted by 堀@感動人   2012年04月27日 06:52
通りすがりさん

こんにちは、堀です。
コメントをありがとうございます。

原文を誤読していた旨、ご指摘をありがとうございます。
文末に付したように、過日、本文の該当個所を修正いたしました。
駄文のご精読、並びに、心遣いのご供与に、深く感謝いたします。(礼)

また、不肖私、コメントを承認制にしていたのをすっかり忘れてしまい、頂戴したコメントの公開が遅くなりました。
本件、深くお詫びいたします。(礼)

堀 公夫

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